ヘンリー王子本編第15話プリンセスになる魔法2
気持ちの焦るまま、城の階段を駆け下りて、玄関に向かおうとしたその時、ヘンリーの目の前に国王が立ち塞がった。
「父上……」
「どこへ、行く気だ……?」
「らゆを……連れ戻しに参ります」
「その必要はない」
「……?」
「お前とらゆさんが、どういう取り引きをしたかわからぬが、らゆさんは充分な報酬は既に受け取っていると……」
「こうして、私と新たなる取り引きをした」
国王が目配せすると、側近の1人が1枚の契約書を広げて見せた。
「ここにある通り、らゆさんは今後このフィリップの城には立ち入らないと約束してくれた」
「今回の不正事件で注目を浴びた彼女と、お前のことを面白おかしく噂してありもしない関係を記事に書かれてはお前の将来にもキズがつく」
「らゆさんはそこを充分に理解してくれた」
ヘンリーの手から、ハラリとらゆのメモが床に落ちた。
そして、ヘンリーはその場に力なく膝まづいた。
「……!?」
ヘンリーはそっと床に落ちたメモに手を伸ばし、小さく呟いた。
「違うんです、父上……ありもしない関係なんかじゃない」
「俺は、彼女を……」
「ヘンリー……?」
「俺は……まだ彼女に、何も伝えていないのに……っ」
ヘンリーの手には、らゆがあの万年筆で書いたメッセージがあった。
『ヘンリー王子の傍にいられた時間は、私にとってかけがえのない宝物です』
『ラッシーは……あなたに選ばれて、本当に本当に幸せでした』
『数えきれない幸せな時間をありがとう』
『どうか、あなたの夢がいつか叶いますように……いつまでも、遠くから祈ってます』
「らゆ……っ」
「……」
今まで見たことも無い、息子ヘンリーの取り乱しように、国王は息を呑んだ。
そうして、初めて2人を繋いでいた強い絆の存在を悟ったのだった。
つづく