ヘンリー王子本編第15話プリンセスになる魔法1
翌朝――。
カーテンから差し込む眩しい朝の光で目を醒ました。
傍らには規則正しく寝息を立てているヘンリー王子がいた。
私は愛しい気持ちでいっぱいになり、白い頬に散る金色の髪にそっと手を伸ばした。
(ヘンリー王子の腕の中で、時間が止まればいいと願ったけれど……)
(やっぱり、朝は来るんだよね……)
私は、ヘンリー王子を起こさないように、そっとベッドから起き上がる。
すると、私の枕元にカードと共に置かれていた小さな箱の存在に気がついた。
(これ……いつの間に……?)
見るとそこには、ヘンリー王子の少しだけ右上がりの几帳面な文字が書かれていた。
その文字を目で追った瞬間、私の瞳から涙が溢れた。
「……」
カードの横に添えられた小さな箱を開けると、ヘンリー王子の瞳と同じ青色の石で小さな花を象った指輪が入っていた。
「もう……最後のお別れなのに……どうして、こんなことするの……」
私はカードと指輪を胸に抱きしめて、声を殺したまま涙を流した。
明け方に目を醒まし、らゆの枕元に指輪を置いたヘンリーは、再びまどろみの中に落ちていた。
ほんの少しウトウトするつもりが、らゆの傍らで心地のいい安心感に包まれて、いつの間にかグッスリと眠ってしまっていたらしい。
何度か瞬きをすると、ヘンリーは隣にらゆがいないこと気がついた。
「らゆ……?」
身体を起こし、部屋を見渡すがらゆの姿がどこにもない。
「らゆ……!?」
もう一度、その名を呼んで、ヘンリーはサイドテーブルの上に小さなメモを見つけた。
その横にはらゆの枕元に置いたはずの指輪の箱も残されている。
「!」
ヘンリーは弾かれたように立ち上がり、慌てて身支度をしながらロイドに電話をかけた。
「ロイド……! らゆを……らゆを探してくれ」
「それから、車の用意を。すぐに空港に向かう」
ヘンリーは用件だけ伝えて電話を切ると、その表情を歪めて小さく呟いた。
「どこにも行くなと……言ったのに……」
そして、すぐに部屋を飛び出した。
つづく