ヘンリー王子本編第14話さよなら王子様10
ヘンリー王子は、黙り込んだまま長いまつ毛を伏せた。
私は、間が持たなくて……そして、これ以上、笑っているのが辛くなってしまう。
「それでは、失礼します」
私は、ペコリとお辞儀をすると、逃げるように部屋の扉へと向かった。
そして、ドアノブに手をかけたその時、私の手にひんやりとした指先が重なる。
(え……?)
ノブにかけた手の動きを封じられて、振り返ろうとした瞬間に背中から抱きしめられた。
清潔感のある、それでいて甘く温かみのあるあの香りに包まれて、私の心臓は制御不能なほどに高鳴ってしまう。
「ヘンリー王子……?」
「行かないで……」
「……」
「研修なんて、行かなくていい……これは、命令だ」
「……」
「もう……離したくない。キミを……どこにも、行かせたくないんだ……」
(また……いつもの冗談……?)
私は、ヘンリー王子の腕の中で、ゆっくりと身体の向きを変えると、ヘンリー王子の顔を覗き込んだ。
そこには予想もしていなかったほど、切羽詰まった表情のヘンリー王子がいた。
青く深い瞳が切なげに揺れて、私は胸の詰まる思いで息を呑んだ。
(そっか……)
(こんなに、胸が苦しいのは……)
(この気持ちを、まだ伝えていないからなんだ……)
私は、目の前で揺れる青く澄んだ瞳を真っ直ぐに見つめ返した。
「好きです……ずっと好きでした」
「どこにいても……私、ヘンリー王子の夢を、ずっとずっと応援してます。だから……」
瞬間、ヘンリー王子の長い指先が頬に触れて、その艶やかな唇で呼吸を奪われた。
甘く情熱的な吐息に何度も呼吸を奪われ、私の意識は朦朧としてしまう。
(好き……)
(この人が、大好き……)
私は、何度も繰り返されるキスを受け入れるように、そっとその背中を抱き返した。
全てを捉えて離さないというように、ヘンリー王子の唇は尚も深く深く私を求める。
(神様……今日だけ……)
(今夜だけ……)
(自分の気持ちに素直になることを、許して下さい……)
私たちは互いを求め合うように、何度も抱き合って、何度もキスを繰り返した。
溢れだした感情を、もはや止めることなどできなかった。
夜の静寂の中に、互いの鼓動と温もりだけを求めて、私たちは感情の海へと深く深く沈んでいった。
つづく